大学における英語教育において、英語を用いた自己表現能力と対人折衝能力の涵養を達成課題としつつ、学習者の自己学習・相互学習の向上を目指した授業実践が求められている。発表者は、担当する早稲田大学法学部一年生の授業で、あらかじめマルチカードに印刷して用意した質問を利用した対面での応答練習、応答練習に基づく少人数グループでの相互プレゼンテーション、応答練習と相互プレゼンテーションに基づく文章作成と相互チェック・相互評価を中心とした初年度導入教育を進め、これに続く二年次には少人数グループによる『調べと発表とまとめ』の授業を実践し、学生の自己学習・相互学習について一定の手ごたえを得ているが、これらを実証的に研究する基礎的な資料の構築と分析も必要である。本稿では、先に報告した学生の発話を無圧縮でデジタル収録するマルチトラック・ハードディスク・レコーダを中心に試作した装置の利用状況と合わせて、ブルートゥース・ワイヤレス・マイクとハードディスク・ビデオカメラを用いた音声画像の収録について報告する。
近年の外国語学習においてはコミュニケーション活動を重視し、教員による知識の提示に基づく学習者における知識の獲得を目的とした活動より、学習者個人の外国語運用ならびにペアまたはグループでの外国語コミュニケーション活動に比重を置く傾向が見られる。このような学習デザインの前提として、運用経験ならびにグループ活動が学習者(相互)による自律的外国語学習に有効に機能すると仮定されているものと思われるが、このことを直接的に証明する客観的なデータは必ずしも十分に提示されておらず、詳細な検証が今後とも必要とされている。
著者たちの研究グループでは、アカデミック・リテラシの習得において学習者の相互的活動が重要な位置を占めていること 、最も広い意味での学習履歴の蓄積と分析が学習活動の効率化と学習資源の改善のために必要であること 、外国語の運用経験が外国語の学習に不可欠であること を前提にこれまでの研究を進めてきた。2006年度からは、科学研究費補助金(2006年4月-2009年3月)基盤研究 (B):課題番号18320093 『学習者プロファイリングに基づく日本人英語学習者音声コーパスの構築と分析』の交付を受けて、日本人大学生英語学習者が比較的自発的な発話や文章作成においてどのような語彙・表現を用いるか、各種外部試験のスコアなどとの関連においてデータに基づいた分析を可能とするための基礎的な資料作成に取り組んでいる。このため、本稿の第一著者が担当する早稲田大学法学部の英語授業の受講者一人ひとりについて学習経歴などのアンケート調査を行い、TOEIC公開テストやVersant for Englishなどの外部試験のスコアを記録し、授業での学習活動における発話音声をデジタル録音するとともに活動の状況をデジタル・ビデオカメラで収録し、授業中ならびに宿題として学生が作成した文章ならびに発表用スライドのファイルとともに蓄積している。
本発表では、この授業の大まかな流れを簡単に紹介した後、音声のデジタル収録に用いる機器を説明し、蓄積中のデータについて言及する。